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2006/09/29 (Fri) 泳げない魚たち1:電話



仕事を終えてホテルに帰ると電話があった。

彼女からだ。

いや、実際は彼女からではなかった。

確かに手に取ったケータイの着信画面は

「リナ」となっていた。

だけど、どういうわけか電話の主は彼女ではなく

知らないおっさんだった。


「おい、おまえ誰だよ?

「釈ちゃん」といったいどーゆう関係なんだよ?」



酔ったおっさんの怒声が耳に飛び込んできた。

「???」

そっちから電話をしておいて、誰だ?とは失礼なおっさんだ。

日本語だ。

「釈ちゃん」か・・・

日本人向けのキャバクラで働いている彼女は

釈由美子にそっくりなので源氏名の「リナ」よりも

「釈ちゃん」と呼ぶ常連客のほうが多い。

おっさんの電話口の後ろには

飲み屋独特の湿ったざわめきや

女のコの嬌声が聞こえている。

電話のおっさんは「リージェンシー」の常連客に違いない。

そして「リージェンシー」の店の中から電話をかけてきている。

なんとなく状況が飲み込めてきた。

彼女の店「リージェンシー」では、

接客中のキャストは自分のケータイを手元に持たず、

ママが陣取るカウンターに並べて置いておく決まりだ。

キャストに電話がかかってきたときはママがキャストを呼び

キャストはカウンターの前で電話することになっている。

どうしてそうなったのかは知らないがそういう決まり。

そして、この電話のおっさんは、ママの目を盗んで

テーブルのリナのケータイを持ち出した。

まあそんなとこだろう。

とんでもないおっさんだ。


「おい聞いてんのか、誰だって言ってんだよぉ!

さっきもお前、釈ちゃんに電話よこしただろ?

え?

え?

おい、なんとか言えよ!?

はっきり言って迷惑なんだよお前の電話!!!

おい、なんとか言えって

聞こえてんだろ?」



こっちが誰かもわからないのにかなり強気なおっさんだな。

酔った勢いとはいえ、遠い異国でその恐いもの知らず加減に

感心しそうになる。

キャストのケータイをパクって

着信履歴からリダイヤルする。

農耕民族のやることではない。

常軌を逸している。

それにしても、ああ面倒くさい。

いっそのこと電話を切ってやろうかとも思った。

でも、だんだんとおっさんがリナとどういう関係なのか

気になり始めている。

ちいさい子供が見せる異常な執着心にもどこか似ている行動が

嫉妬心にとち狂ったただのお客とは思えない。


「ああ、はい、聞こえています。

えと、私は山本と言うものですが、

なにか電話番号をお間違えではないでしょうか?」



「お? お? お? そうきたか」


あ、そうか、リダイヤルしてるのにそれはないな。

自分でも笑ってしまった。


「いや、本当にですね、あの、失礼ですがどちら様でしょうか?」


「おれか、おれはな、三菱商事の中野ってもんだ」

すんなり教えてくれた。

さすが一流企業は違う。

肩書きまで言いそうな勢いだ。


「はあ、中野さんですか、で中野さんは今どちらから・・・」


「イッタア・・・・」


「はい???」


電話の声がいきなり遠くなった。

電話越しにおっさんとママがわめいている声が聞こえる。

「もしもーーし」

きっとキャリアはあっても使えないおっさんなんだろうなあ。

「・・・もしもーーし・・・」

でも一流企業の部長クラスでお金はたんまりかあ。

「・・・もしもー」

いきなり電話口におっさんの声が戻ってきた。


「いいか、言っとくがな、釈ちゃんはオレの女だ!

よく聴け!

オレの好きな四文字熟語は「釈由美子」だ!

わかったか!

二度と電話すんじゃねーぞ!このやろ」



捨てセリフのようにそれだけ言うと電話は切れた。

部長さんは本物のバカらしい。







「誰なんだよ、あのおっさん」

目が合うと彼女はニッコリ笑った。

必死で不恰好な笑顔だ。

一度地面に落として、粉々に砕けた笑顔のカケラを

もう一度かき集めてセロテープで止めたって感じ。

針先でつついただけでガシャガシャ音を立てて崩れそうだ。

「誰だって聞いてんだよ」

自分がどこにいるのか分かっていないのは、オレも同じだ。

最悪の展開。

「お店のお客さんだよ、ただそれだけだって」

彼女が中国語で答える。


「ただのお店のお客さん?

ただの客がキャバクラのキャストつかまえて

“オレの女だ”って言うか?

だいたい、日本人のおっさんは

ただの客だったらそんなこと言わねーよ。

ってか、ただの客が

お前のケータイの着信履歴からリダイヤルなんかしねーよ」



彼女はオレを見上げている。

かなり酔っているのか瞳に薄い膜がかかって

とろんと焦点がぼやけている。

頭の中で火花が散った。

自制する間もなく手を振り上げていた。

パァンと見事な音がした。

完璧なクリーンヒット。

自分でビックリしてしまった。


彼女は横を向いて茫然としていた。

長い髪が頬に絡みついていた。

右手にじんわり熱が広がってきて、

急に気まずくなって、ぶっきらぼうに吐き捨てた。


「オレ、電話かかってきたとき

おっさんからいろいろ聞いたんだぜ」


ウソだ。

オレはおっさんから彼女との関係なんて何ひとつ聴いちゃいない。

彼女は足元を睨みつけた。

強情そうな眼、唇の端に力がこもった。

まるでガキだ。


頭の内側に虫がはいずり回っているようで

煙草を取り出した指先が震えた。

くわえてフィルターを噛んだ。

火をつけようとして気が失せた。

くわえていた煙草を手にとってへし折った。

安っぽい青春ドラマみたいだ。


「あの人から何を聴いたか分からないけど

本当にただの常連のお客さんなの」


彼女は足元を睨みつけたまま言った。

どうやら口を割る気はいっさいないらしい。

「オーケー、オーケー、じゃ、そーゆーことにしておくか」

背を向け歩き出した。

ポケットに突っ込んだ左手で百円ライターをもてあそぶ。

ガスの噴出ボタンを押さないように石だけをガリガリ回す。

歯軋りみたいに。


オレはなにがしたかったのか。

彼女になんて言わせたかったのか。

「そうなの、あの人にお金をもらって囲ってもらっているの」

とでも言わせたかったのか。

自分の中で何かが途切れてしまいそうだ。

ひとことで言えば、緊張感、というヤツだ。

本気で彼女のことが好きであるが故の緊張感。

苦笑がもれた。

苦笑、自嘲、中国に来てからはその繰り返しだ。

惨めな自分を笑うことで、かろうじてまだ何かを守ろうとしている。

「どうでもいいよ・・・・面倒くさ・・・・」

上海のネオンが毒々しくて

そこから逃げるようにひとけがないほうへと歩いていった。

誘蛾灯から逃げる蛾が一匹くらいいてもいい。



(トゥびー こんてぃにゅー)








これ、先週、中国から帰ってきた部下の実話です。

小説仕立てにしてみた。

3~4話くらいで完結する予定☆









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comment

わお☆

ドキドキな展開!


(久しぶりー☆実は、更新されてるかな?って何回も見に来てたよw)
2006/09/29 00:51 | めみ [ 編集 ]

何と言うスピード感とスリル!、、、まるで目の前で展開されるヒリヒリする様な男女の一こま。。。。
それにしても、聞いた話とは言えたいした引力です、目が磁石の様に文章を追ってしまいました。
展開が楽しみです。。。
2006/09/29 01:20 | みっちゃん [ 編集 ]

すげー!!Fineさん文章うまっ!!
かっこいい~!!

いや、ただ感心しちゃいました☆
やっぱいっぱい本読むと違うのかな・・・w

続きが楽しみです♪
2006/09/29 17:20 | ユイ [ 編集 ]

>めみちゃん

ドキドキしてもらえてます???
嬉しいです♪

何回も見にきていただいたんですか。
そんなこと言われたら
やっぱうれしいです♪
申し訳ないっすw
そんなこと言われたら・・・
頑張って更新します☆

>みっちゃんさん

あは!褒め上手ですねえw

>目が磁石の様に文章を追ってしまいました
どこで覚えたんですか、その褒め言葉
でもね、私、単純なんで
素直に喜んでます♪

>ユイちゃん

いえいえ、文章、上手いことないですって(嬉
売れてる本を読んだら、違いは一目瞭然です

でもね、趣味で小説書いたりしてるんです
高校のとき演劇の脚本書いてから
なんとなくそーゆーのスキになったw
2006/09/30 01:52 | FineDays [ 編集 ]









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【コメント 嬉しい♪楽しい♪大好き♪】

コメントするとタヒチ旅行が当たる!!!    かもよ・・・

【ばついち。だっけなんだや】

FineDays

Author:FineDays
プロフィール写真を変えてみた。
女豹のポーズの写真とどっちにしようか悩んだけどな。
思いきり背中そらせた上目使いのやつ。
でもやっぱ、まだ処女性をアピールしたい年頃じゃん?
「美尻伝説」打ち立てんのはまだ先でいいかなあって。
もうちょい清純派路線つらぬくわ。
でもなそうは言ってもな
アンアンの「SEXで綺麗になれる」特集とか見て来る日に備えてっから☆

【カウンター跳ね上がれ!マッハで♪】

【かてごり】

【激鬱を治癒する物語たち】

【リンク 行ってみれ】

あの娘のもとに                               飛びますっ!飛びますっ! 

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